東京高等裁判所 平成12年(行ケ)11号 判決 2000年6月29日
原告
ドイッチェテレコムアクチェンゲゼルシャフト
代表者
【A】
同
【B】
訴訟代理人弁護士
宇井正一
同弁理士
【C】
同弁理士
【D】
訴訟復代理人弁理士
【E】
被告
特許庁長官【F】
指定代理人
【G】
同
【H】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成10年審判6236号事件について平成11年9月20日にした審決を取り消す。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成7年12月27日、「T-System」の文字から成る商標(以下「本願商標」という。)を、第9類「理化学機械器具、測定機械器具、配電用又は制御用の機械器具、電池、電気磁気測定器、電線及びケーブル、写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、眼鏡、加工ガラス(建築用のものを除く。)、救命用具、電気通信機械器具、レコード、電子応用機械器具及びその部品、オゾン発生器、電解槽、ロケット、遊園地用機械器具、回転変流機、調相機、電気アイロン、電気式ヘアカーラー、電気式ワックス磨き機、電気掃除機、電気ブザー、鉄道用信号機、乗物の故障の警告用の三角標識、発光式又は機械式の道路標識、火災報知器、事故防護用手袋、消火器、消火栓、消火ホース用ノズル、消防車、消防艇、盗難警報器、保安用ヘルメット、防火被服、防じんマスク、防毒マスク、磁心、自動車用シガーライター、抵抗線、電極、溶接マスク、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、ガソリンステーション用装置、自動販売機、駐車場用硬貨作動式ゲート、金銭登録機、計算尺、硬貨の計数用又は選別用の機械、作業記録機、写真複写機、手動計算機、製図用又は図案用の機械器具、タイムスタンプ、タイムレコーダー、電気計算機、パンチカードシステム機械、票数計算機、ビリングマシン、郵便切手のはり付けチェック装置、ウェイトベルト、ウェットスーツ、浮き袋、エアタンク、水泳用浮き板、潜水用機械器具、レギュレーター、アーク溶接機、犬笛、家庭用テレビゲームおもちゃ、金属溶断機、検卵器、電気溶接装置、電動式扉自動開閉装置、メトロノーム」を指定商品として商標登録出願(商願平7-134615号)をしたが、平成9年12月26日に拒絶査定を受けたので、平成10年4月22日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、これを平成10年審判第6236号事件として審理したうえ、平成11年9月20日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年10月16日、その謄本を原告に送達した。なお、出訴期間として90日が付加された。
2 審決の理由の要点
審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本願商標に接する需要者、取引者は、同商標中の「T」の文字を商品の記号、符号を表わすにすぎないものとして、また、「System」の文字を商品の装置、方式を意味する語としてそれぞれ理解し、認識するにとどまり、全体としても自他商品の識別標識としての機能を果たすものと認識し得ないから、本願商標は、取引者・需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものであり、商標法3条1項6号に該当する、というものである。
第3原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、「1 本願商標」及び「2 原査定の理由」は認める。「3当審の判断」は争う。
審決は、本願商標の一体不可分性を看過して、これを「T」と「System」に分けて認識されるものと誤認し(取消事由1)、これもあずかって、本願商標は自他識別標識として機能しないと誤認し(取消事由2)、その結果、同商標を、商標法3条1項6号に該当するとしたものであるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願商標の一体不可分性の看過)
審決は、本願商標を「T」と「System」とに分けたうえで、それぞれの文字が自他識別標識としての機能を果たすものではないとする。
しかし、以下に述べるとおり、取引者・需要者は、近年、本願商標のようなローマ字1文字と他の語とがハイフンで組み合わされた語を、分離して認識することなく、一体のものとして認識するにようになっており、かつ、本願商標は、外観及び称呼において一体性を有するものであるから、本願商標は、取引者・需要者から一体不可分のものと認識されると解するべきである。
最近、我が国では、複数の語からなる結合語を採択する場合に、ローマ字1字と他の語とを組み合わせて、あるものの名称とすることが頻繁に行われるようになっている(例えば、「Eメール」(電子メール)、「J-Phone」(携帯電話)、「Pメール」、「Cメール」、「Aメール」(PHSの文字通信)、「iモード」(携帯端末の情報通信)、「X-Japan」、「J-Friends」、「F-Blood」(音楽グループ)、「Jリーグ」(プロサッカー)、「Xリーグ」(社会人アメリカンフットボール)、「Vリーグ」(バレーボール)等。)。
特に、ローマ字1字と組み合わされる語がローマ字の場合、両者はハイフンで結合される傾向にあり、本願商標も同様である。これらの語は、テレビ、新聞、雑誌等のメディアに頻繁に出現し、日常的に接するものであるため、既に取引者・需要者間で広く認知され、浸透している。このため、取引者・需要者は、ローマ字1字と他の語とをハイフンで組み合わせて成る結合語を、単にある語にローマ字1字を付加したものと認識するのではなく、一体的な語として認識するようになっており、このような事情は、商標一般についても生じている。
本願商標の外観は、これを構成する各文字が、同一の書体、同一の色彩で横一段に記載されており、かつ、「T」と「System」とはハイフンの働きにより連結して一体のものとなっている。したがって、外観上、本願商標が「T」と「System」とに分離されることはない。
また、称呼については、一般に、ハイフンを有する語は、ハイフンの前後で分断されることなく一連に称呼されており(例えば、「Co-op」を「コープ」と一連に称呼する。)、かつ、本願商標から生ずる称呼「ティーシステム」は、さほど冗長なものではないから、簡易迅速を尊ぶ取引界でも、称呼の面で「T」と「System」とに分離される余地はなく、一体のものとして称呼されることは明らかである。
2 取消事由2(本願商標の識別性に関する誤認)
本願商標は、識別性を有する。
(1) 本願商標の「T」は、原告の名称である「Deutche Telekom」の「Telekom」頭文字を採ったものであり、原告の商標の冒頭部分に数多く採択されている。すなわち、原告は、日本における子会社であるドイツテレコム株式会社を通じ、既に日本で販売、提供している商品・役務について「T」を他の語とハイフンで結合した商標を使用しており(「T-InterConnect」(インターネット接続サービス)、「T-Net Solutions」(企業内通信ネットワークサービス)、「T-Online」(オンライン・インターネットサービス・コンピュータ、モデム、CD-ROM等)、「T-LAN」(LANソリューション)、「T-NetCall」(インターネット電話)等)、これらの商標の「T」は、原告の提供する商品・役務の符号や記号ではなく、商標の必須構成要素として、他の語と一体不可分のものとして取り扱われている。本願商標の「T」も、商品の符号や記号として使用されているのではなく、上記各商標と同じく、商標の必須の構成要素として、「System」の文字と一体不可分のものとして使用されている。
(2) 上に記したところによれば、本願商標に接した平均的知識水準の取引者・需要者も、本願商標の「T」の字を商品の符号、記号としてではなく、本願商標の必須構成要素であると理解し、一体不可分のものとしてとらえると解すべきである。特に、取引者・需要者は、商品の選択に際しては、商標だけを見るのではなく、パンフレットや商品上の記述を参照するから、このような記述を見た取引者・需要者は、本願商標の「T」が単なる符号や記号ではなく、本願商標の必須の構成要素であることを容易に理解できる。原告及びその日本の子会社であるドイツテレコム株式会社は、本願商標を浸透させるため、本願商標の使用に際し「T」を商標の必須構成要素であることを認識させるように努めるから、これにより取引者・需要者は、「T」が商標の必須構成要素であることを認識させられることになる。そして、前記のように、ローマ字1字とある語とがハイフンで組み合わされた語が日常頻繁に使用されるようになっている社会状況の下では、取引者・需要者が本願商標を一体不可分のものとすることに何ら抵抗はない。このように、原告が商品の符号、記号として使用するものではなく、取引者・需要者も商品の符号、記号と認識しないものは、商標法上の符号、記号とはなり得ない。
(3) 本願商標は、何らかの意味を表示するとしても、全体として、「T方式」という抽象的な意味合いを感得させるにすぎない。商標法上、登録を拒絶される商品の品質、機能を表示する商標とは、具体的な品質、機能を直截に表示し、取引者の誰もが品質、機能の表示として使用する商標をいうものと解すべきであるから、本願商標のように、具体的な品質、機能を表示しない商標は、登録を拒絶されることなく、自他商品の識別標識として機能するものとして、登録が認められるべきである。
(4) 原告は、本願商標と同じ構成の、「T-System」及び、「T」と指定商品ないし指定役務との関係で明らかに識別力を欠く語とがハイフンで結合された商標(「T-Online」、「T-net」、「T-Card」)につき、商標登録を受けている。これらの登録商標の指定商品には、本願商標の指定商品と同一のものもある。
また、本願商標の指定商品の分野において、それぞれ「Q方式」(「QSYSTEM」)、「J方式」(「ジェーシステム」)、「Z方式」(「Z System」、「ゼットシステム」)という意味合いを感得できる商標が商標登録されている(これらの商標はハイフンで結合されていないが、ハイフンの有無はローマ字と「System」の文字との結合を弱めるものではないから、構成上同じに扱ってもよいはずである。)。
本願商標がこれらの登録商標と別異に取り扱われる特段の理由はない。
第4被告の反論の要点
審決の認定判断は、いずれも正当であり、審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本願商標の一体不可分性の看過)について
(1) 審決は、本願商標の自他商品の識別機能について、ローマ字の「T」と「System」とを単に分けたうえで、判断したものではなく、本願指定商品及び機械器具の業界における「Fシステム」、「Yシステム」等ローマ字1字と「システム」の語が結合されたものが商品の性能、仕様等を区別するために用いられている実例をあげて、「T」と「System」の文字を結合した本願商標が、全体としても、自他商品の識別標識としての機能を有しない旨判断したものである。
本件で問題なのは、本願商標が自他商品の識別標識としての機能を有するかどうかであり、本願商標が一体不可分のものと認識されるかどうかということは、上記自他商品の識別機能との間に直接の関係はない。本願商標は、外観上、特段図形化されるというような事情もないから、本願商標の一体不可分性は、自他商品の識別標識としての機能の有無に何らの影響を与えるものではない。
(2) 取引者・需要者は、ローマ字1字と他の語とがハイフンで結合された場合に、必ず「全体として特定のものを指す一体的な語として認識する」とはいえず、商標についての取引者・需要者の認識は、構成する文字や指定商品を取り扱う業界の実情等によって異なる。
例えば、本願商標の指定商品を取り扱う業界においては、いわゆるシリーズ商品について、上位概念としてのシリーズ名と、その中で細分化された商品名や記号とを、ハイフンで結んで用いることが普通に行われている。この場合、その語は、上位概念であるシリーズ中の下位概念であるシリーズ機種を表すものとして使用され、認識されているのであって、ハイフンで接続されたことによって、全く新たな特定の意味合いを認識させるものではない。このような場合、ハイフンで結合された商品については、ハイフンの前あるいは後の語で表示することが一般的に行われている(ビデオカメラの機種につき「CCD-TR555」と「CCD-TR12」がある場合に、当該機種をハイフンの後の「TR555」又は「TR12」で表示する等)。
2 取消事由2(本願商標の識別性に関する誤認)について
(1) 商標が自他商品の識別標識として機能し得るか否かは、商標から生ずる意味及び意味合いと、その商標が使用される商品との関係において、一般の取引者・需要者がその商標により商品の出所識別標識と認識するか否かによって判断されるべきものである。
(2) 本願商標は、ローマ字1字の「T」と、「複数の要素が有機的に関連しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体、組織、系統、仕組み」を意味する語である「System」とをハイフンで結合したものである。
本願指定商品を取り扱う業界では、一般に、「System」あるいは「システム」の語は、「特定の機能を発揮する装置(商品)の組合せ、方式」を表す語として頻繁に使用されている(音響機器における「AVシステム」、「AUDIO SYSTEM」、「SREAKER SYSTEM」、情報機器における「CADシステム」、「オペレーションシステム」、「operating system」、「コンピュータ システム」等)。
また、本願指定商品を取り扱う業界においては、一般にローマ字1字又は2字、数字等は、商品の品質、等級等を表す記号・符号として頻繁に使用されている。同業界では、システムの機能、性能、用途、価格等について複数のタイプの商品提供を行っている場合があり、このような場合に、ある「システム」と他の「システム」を区別するため、ローマ字、数字等の記号・符号と、「システム」、「SYSTEM」の文字とを組み合わせて表示することが普通に行われている(例えば、コンピュータ用給与会計ソフトについて、その性能により「Aシステム」、「Bシステム」、「LAN対応版」の3タイプが販売され、コンピュータ用企業財政ソフトについて、その性能により「Aシステム」、「Bシステム」、「Superシステム」の3タイプが販売され、ステレオについて「495システム」、「395システム」、「S70システム」が用いられている。)。このことは、本願商標の指定商品を取り扱う業界以外でも同様である(例えば、機械器具の分野において、鉄骨加工業界向けの自動溶接システムについて、工法の違いにより「Fシステム」、「Yシステム」が用いられ、プリント回路基盤分割装置について、分割する方法の違いにより「Uシステム」、「XYシステム」等が用いられている。)。
(3) 原告の中心的な業務である情報通信サービスは、本願商標の指定商品に係る業務とは異なる。原告が「T」と結合して成る語を商標として多数採択しているとしても、原告が上記各商標を採択した意図が需要者に広く認識されているとは認められない。また、本願指定商品について「T-System」の文字が原告の商標として広く知られている事実もない。
(4) そうすると、本願商標に接する一般の取引者・需要者は、本願商標から、他のシステム及び商品と区別するという程度の意味で、「Tという装置(商品)の組合せの一つ」、「T方式」というような意味合いを認識するのであって、本願商標が自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認識しないというべきであるから、本願商標は、自他商品の識別標識としての機能を有しない。
(5) 原告が特許庁における取扱例として引用する登録商標は、①役務に係るものであって本願商標の指定商品とは対象を異にするものか、②指定商品が同一であっても、構成する語が本願商標とは異なるものである等、本願商標とは事案を異にする。したがって、上記登録例があることは、本件審決を取り消す理由にはならない。
第5当裁判所の判断
1 本願商標の構成とその指定商品
(1) 本願商標が、「T-System」との文字を横書きして成り、第9類「理化学機械器具、測定機械器具、配電用又は制御用の機械器具、電池、電気磁気測定器、電線及びケーブル、写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、眼鏡、加工ガラス(建築用のものを除く。)、救命用具、電気通信機械器具、レコード、電子応用機械器具及びその部品、オゾン発生器、電解槽、ロケット、遊園地用機械器具、回転変流機、調相機、電気アイロン、電気式ヘアカーラー、電気式ワックス磨き機、電気掃除機、電気ブザー、鉄道用信号機、乗物の故障の警告用の三角標識、発光式又は機械式の道路標識、火災報知器、事故防護用手袋、消火器、消火栓、消火ホース用ノズル、消防車、消防艇、盗難警報器、保安用ヘルメット、防火被服、防じんマスク、防毒マスク、磁心、自動車用シガーライター、抵抗線、電極、溶接マスク、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、ガソリンステーション用装置、自動販売機、駐車場用硬貨作動式ゲート、金銭登録機、計算尺、硬貨の計数用又は選別用の機械、作業記録機、写真複写機、手動計算機、製図用又は図案用の機械器具、タイムスタンプ、タイムレコーダー、電気計算機、パンチカードシステム機械、票数計算機、ビリングマシン、郵便切手のはり付けチェック装置、ウェイトベルト、ウェットスーツ、浮き袋、エアタンク、水泳用浮き板、潜水用機械器具、レギュレーター、アーク溶接機、犬笛、家庭用テレビゲームおもちゃ、金属溶断機、検卵器、電気溶接装置、電動式扉自動開閉装置、メトロノーム」を指定商品とする商標であることは、当事者間に争いがない。
(2) 本願商標の「T-System」の文字が、「T」及び「System」という二つの文字をハイフンで結合した商標であることは明らかである。
2 取消事由1(本願商標の一体不可分性の看過)について
原告は、審決が、本願商標を構成する「T」の文字と「System」の文字とを分離して観察した結果、本願商標の自他識別性を否定する判断を導いたのは、本願商標の一体不可分性を看過した点で誤っている旨主張する。
原告が「本願商標の一体不可分性」という場合の「一体不可分性」がいかなる意味であるかが、まず問題である。
原告のいう「一体不可分性」が、本願商標は、最終的には、全体として一つのまとまった意味を有するものとして理解されるという趣旨にとどまるものであるならば、審決も、本願商標の一体不可分性を否定してはいない。このことは、審決の記載自体、特に、「本願商標に接する需要者、取引者は、該「T」の文字を商品の記号、符号を表すにすぎないものとして、また、「System」の文字を商品の装置、方式を意味する語としてそれぞれ理解し認識するに止まり、全体としても自他商品の識別標識としての機能を果たすものとは認識し得ないものと判断するのが相当である。」(審決書4頁19行~24行)によって明らかである原告のいう「本願商標の一体不可分性」が、本願商標を構成する「T」と「System」の二つの要素が完全に融合して、それぞれの要素がそれ自体の意味を有するものと認識されることはない状態に至っているという意味であるならば、採用できない。
すなわち、本願商標は、それを構成する「T」と「System」のいずれもが、それ自体として、我が国においてよく知られた文字あるいは語であるうえ、これら両者は、ハイフンによって明確に分離されているものである以上、本願商標に接した一般の取引者・需要者に、「T」と「System」のそれぞれに着目した観察と認識が生ずるのは、むしろ当然というべきであり、このような観察と認識が生じないとするためには、それを根拠付ける特別の事情が認められなければならないというべきである。ところが、原告が引用する多数の例の存在も上記事情には該当せず、他にも、上記事情を認めさせる資料はない。
したがって、審決が、本願商標につき、「T」と「System」とを分離して観察したことに誤りはなく、この点についての原告の主張は失当である。
2 取消事由2(本願商標の識別性に関する誤認)について
(1) 本願商標に用いられている「System」は、「複数の要素が有機的に関係し合い、まとまった機能を発揮している要素の集合体」(広辞苑第4版参照)を意味する語であり、証拠(乙第2号証の1ないし3)によれば、本願指定商品を取り扱う業界において、音響機器につき「AVシステム」、「AUDIO SYSTEM」、「SPEAKER SYSTEM」、情報機器につき「CADシステム」、「オペレーティングシステム」、「operating system」、「コンピューターシステム」等、頻繁に用いられていることが認められる。上記認定事実と弁論の全趣旨によれば、同業界において、一般に、「システム」又は「System」の語は、「装置(商品)」、「装置(商品)の組み合せ」又は「方式」を意味するものとして用いられ、一般の取引者・需要者も、そのような意味を有するものとして認識するということができる。
そして、証拠(乙第3号証の1ないし3、第4号証の1、2)によれば、同業界においては、同一の製造者あるいは販売者が、例えば、コンピュータ用ソフトにつき、その性能により「Aシステム」、「Bシステム」等の語を用いて、ステレオにつき、機器の組み合わせ形態の違いにより「595aシステム」、「495システム」、「395システム」、「S70システム」の語を用いて、34型テレビ対応のシステム家具につき、構成単位となる家具の組み合わせ形態の違いにより「SYSTEM A」、「SYSTEM B」の語を用いて、それぞれ商品を区別していること、本願指定商品以外の商品を取り扱う業界においても、同一の製造者あるいは販売者が、例えば、機械器具の分野における鉄骨加工業界向けの自動溶接システムにつき、工法の違いにより「Fシステム」、「Yシステム」の語を用いて、プリント回路基盤分割装置につき、分割する方法の違いにより「Uシステム」、「XYシステム」の語を用いて、それぞれ商品を区別していることが認められる。上記認定事実によれば、本願指定商品等を取り扱う業界において、同一種類の商品につき、装置の性能、機能や装置を構成する機器の組み合わせ等の違いにより複数のタイプのものを提供している場合に、これらを区別する標識となる記号、符号としてローマ字や数字を用い、これと「システム」又は「System」の文字を組み合わせて表示することによって、商品を区別することが普通に行われているものということができる。
そうすると、形態上、上記組合せの一類型といえる本願商標に接する一般の取引者・需要者は、特段の事情がない限り、本願商標につき、性能や構成する機器の異なる他のシステムないし商品と区別するために用いられている標識であると認識するにすぎず、本願商標が何人かの一定の業務に係るものであるとは認識し得えないというべきである。
(2) 原告は、本願商標に用いられている「T」の文字は、原告の名称の一部の頭文字をとったものであり、原告の商標の冒頭部分に数多く採択されていること、原告が、子会社を通じて、日本国内で販売、提供する商品、役務につき、冒頭部分に「T」の文字を用いた商標を使用していること等を根拠に、本願商標の「T」の文字は、商品、役務の符号や記号としてではなく、商標の必須構成要素となるものとして働いているから、本願商標は、出所を表示するものとしての識別性がある旨主張する。
しかし、本願商標を採用した原告自身の主観的意図や使用状況が原告主張のとおりであるとしても、(1)で説示したところによれば、本願商標が出所を表示するためのものとして識別性を有するといえるためには、本願商標を含め、冒頭部分に「T」の文字を用いた商標が、原告の商品を表すものであることが、一般の取引者・需要者に知られていることが必要であるというべきであるのに、このような事実は本件全証拠によっても認めることができない。したがって、上記主張事実から本願商標が自他識別性を有していると認めることはできない。
(3) 原告は、特許庁において、本願商標と同一構成の商標を含むローマ字と「System」とを結合した語が、多数、商標登録されていることを指摘する。
しかし、これらの各登録商標が、現に、商標として、すなわち商品あるいは役務の出所を示すものとして、一般の取引者・需要者に認識されていると認めるに足りる証拠はないから、これらの登録商標の存在は、本願商標の自他識別性の有無についての判断を左右するものではない。
(4) 他にも、前記特段の事情に該当すべき事実は、本件全証拠によっても認めることができない。したがって、本願商標につき自他識別性がないとした審決の判断に誤りはない。
第6結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決には、これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担、上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 宍戸充 裁判官 阿部正幸)